ニュージーランドで知り合ったふたりの友人が、遠路遙々うちに遊びにやってきた。
一人は関西から。もう一人は関東から。
ニュージーランドで初めて知り合ったとき、その二人の男女は一緒に旅をしていた。最初はてっきりカップルなのかと思っていた。
しかし二人、実はただの旅のパートナー。
強いていえば、トランピング(トレッキング)の師匠と弟子のような関係。
女の子の方がニュージーランドで山歩きをはじめたいと思って、友達を通して紹介されたのが彼だったという。以来、3週間に渡って、一緒に旅しながら山歩きを楽しんでいた。
「え〜、3週間も一緒に旅しててタダの友達なんてあり得るの!?」
よくそういわれるという。
バックパッカーズで男女別のドミトリーに泊まっていると、同室者から「ケンカしたの？」とよけいな心配をされたり。
でも、じっさいこういう関係がふつうにあり得るのが、ワーキングホリデー事情の不思議なところなのだ。
お互い旅行中の身、自由度が大きい。どこかで知り合って気が向けば一緒に旅を続けるもよし、別れるのも自由。フラットを借りていれば、友達の友達の紹介で、初対面の人が家に急に泊まり来るなんてこともけっこうザラにある。ワーキングホリデー中はフットワークが軽い。
男女を分ける意識も日本に比べたら少ない。現地人の大学生などもそうなのだけど、向こうではフラット（アパート）を借りて数人でシェアするという習慣がある。たいていの場合、男女の区別はない。
ぼくが住んでいたフラットも男３人、女２人の混成だった（ちなみに香港人、韓国人、日本人）。同居だった日本人女性は、「男の人と住んでるなんて日本の家族には言えない…」と言っていた。
バックパッカーズ（安宿）にしても、男女を区別しない相部屋が多い。
そんな土壌だから、男女が友達感覚で一緒に住む、旅行するというのは、さほど不自然ではないのだ。
そんな事情に慣れると、男と女を明確に区別する日本の考え方が、かえっていやらしく感じてしまう。男女で仲がいいとすぐに恋愛関係に結びつけようとする単純発想。そもそも男と女ではなく、人間同士という基本的な関係では見てくれないのだろうかと悲しく思ってしまう。
もちろん本当に恋愛関係に発展する場合もある。しかし日本での作為的な"出会い"とは違って、まずそういう前提がないプレインな付き合いからはじめられるのが、ニュージーランドの男女関係の楽しいところだと思っている。男だ女だを意識しないで、まずは自然に人間関係を楽しめる。
ぼく自身、ニュージーランドの宿で知り合った女の子と気があって、そのまま次の日から一緒に山小屋泊まりのトレッキングに行ったことがなんどかある。
日本感覚でいったら、知り合ってすぐいきなり一緒に？ という感じかもしれない。でも、そんなヘンな意識はお互い全くない。自然なのだ。日本で薬剤師をしていたというとある人との場合、辺鄙な山域だったので、二日間山小屋で二人きりだったけど...別になにがあったってわけじゃない。
さて、冒頭の二人の場合、ニュージーランドで３週間いっしょに旅を続け、女の子の方が、トランピングにもだいぶ慣れてきたところで独り立ちの時期になった。そこでパートナーを解消、それぞれ別々に歩きはじめることになった。ぼくが二人に出会ったのはちょうどその直前だった。
二人が別れて３週間くらいたったある日、偶然にもぼくは彼女の方と別の町の宿でばったり再会した。
「別々になって淋しくない？」
「うーん、それはちょっとあるけど、でもこれは私の旅だから。いろんな人と出会って別れていくのって旅の常でしょ...。その中でも彼との旅は絶対に忘れないと思う。日本に残してきた彼氏には言えないけどね」
徹夜で話した内容を要約すれば、そんな感じだった。
以前、ふたりで長逗留していたバックパッカーズの女性オーナーから、聞かれたという。
「あなた達は恋人同士なの？」
すると彼女は反射的に慌てて答えた。"Absolutely, NOT! He is Just a friend."
ひどいなぁと思いつつ、彼は補足した。"No, We are not just friends, BEST friends, right ?"
この答えに彼女も納得。まあ、とにかくこんなふたりだった。
その後二人はニュージーランドでは再会することなく、それぞれ日本に帰国した。そして実に約8ヶ月ぶりに昨日ぼくの家で再会した。
あいかわらずしっかり者の彼は、彼女の見事なボケ具合をフォローしつつ、楽しそうにやっていた。夜は二人ともうちに泊まって、今朝また別れていった。
大阪と横浜。今度会うのはいつなのだろう？ こんな長いスパンの良い付き合いがあってもいいと思う。
Waimakariri River / photo by hiro
